葉石かおり(はいし かおり)

1966年東京都生まれ。日本大学文理学部独文学科卒業後、ラジオレポーター、女性週刊誌の記者を経てフリーランスになる。「おひとりさま向上委員会」(現在活動休止)で代表を勤めている間、「おひとりさま」という言葉が2005年度流行語大賞にノミネートされる。その後、各メディアにて現代女性のおひとりさま事情や、ひとり時間、ひとりゴハンなど、「ひとり」をキーワードにコメントや記事を寄せる。また、きき酒師、焼酎アドバイザーとして、酒蔵や酒場の取材、コンサルティングの他、セミナーや講演多数。女性ならではの視点を生かし、酒の文化やおいしさを伝えている。東京都在住。

SSI(日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会)副会長
エッセイスト、きき酒師、焼酎アドバイザー、フードコーディネーター
第10回 名誉きき酒師酒匠(2009年)


葉石かおりオフィシャルブログ 「美酒らん」



 燗酒が好きだ。

 真夏でも燗酒を欠かさないほど、燗酒が好きだ。

しかし最初から燗酒が好きだったかというと、実はそうではない。学生時代、なけなしのアルバイト代で飲んだ燗酒は、正直言って決しておいしいものではなかった。以来、燗酒に対し、いいイメージがなく、三十路を過ぎるまでほとんど口にしたことがなかった。

 燗酒のイメージを一新してくれたのは、高田馬場にある『真菜板』の御主人・杉田さんだ。杉田さんは燗付け師の資格を持っており、その酒に合う温度をぴたっと当ててしまう。彼の手にかかると、どんな酒も魔法がかかったよう、常温では感じられなかった魅力が花開く。一般的な酒に限らず、活性のにごり酒をも上手に燗をつけ、違った表情を私達に見せてくれる。まさに燗酒界のイリュージョニストといった風だ。この店を知って以来、燗酒のおいしさに目覚め、季節に関係なく燗酒を楽しむようになった。

 燗酒の魅力はいくつかあって、中でも特筆すべきは「酒のポテンシャルを最大限に引き出す」こと。温めることで旨味が増し、米のふくいくとしたおいしさが味わえる。また温度を2~3度変えるだけでも表情が大きく変わり、これが同じ酒かと思うほど。それがまたおもしろい。特に生もとや山廃系の酒は劇的に変わる。強めの酸味が丸みを帯び、米を長く噛んでいる時に感じる甘味がグッと涌いてくる。たかが温度の違いで、これほど味が変わるとは。世界広しといえど、こんな楽しみができるのは日本酒くらいだろう。この国に、そして日本人に生まれたことに感謝せねばならない。

 燗酒は「さしつさされつ」のスタイルもまたいい。“飲ミニケーション”という言葉が死語になりつつある今だからこそ、燗酒を通して、コミュニケーションを深めて欲しい。これはどんな高等な会話テクニックより有効だと思う。個人主義が横行する若い世代にこそ、燗酒を強く薦めたい。

 純粋に体が温まることもまた、女性には嬉しい。私事で恐縮だが、燗酒を飲むようになってから“冷え”とは無縁である。真冬でも保温下着はほとんど着ないし、夏は冷房がガンガンにきいた部屋で平然とした顔をしているので、周囲からも驚かれる。肌の調子もすこぶるいい。燗酒によって内臓を温めることで、新陳代謝が上がったからだろう。日本酒そのものも美肌効果があるというのもある。日本酒に多く含まれている(アミノ酸のうち特に)アルギニンは、コラーゲンの主な原料となりお肌の再生に一役かってくれるという。。

 味良し、体に良し、美容に良し。
 三拍子そろった燗酒を、飲まない手はないだろう。その魅力をぜひとも自身の舌で味わって欲しい。